下の「収穫祭」でずいぶん心がすさんだので、次はぜひ心温まる作品を読みたかった。
これはよかった。 泣けた。
とはいっても、この本は8編による短編集で、ほとんどが中学校のいじめの話。
なんで心温まったかというと、その話すべてに村内先生が登場するからである。
村内先生は、産休とか病気とかで学校に来られなくなった先生に代わって、ある期間だけやってくる国語の臨時教師。
この先生、吃音が激しく、特に「カ行」と「タ行」がひどい。
ウィキで見たら、重松清さんも吃音症だったとか。
「ハンカチ」
家では喋れるのに、学校にいる時と学校の友達といる時と学校のことを考えている時は喋れない女子生徒の話。
場面緘黙症というらしい。
声が出ない時、この子は制服のポケットに入っているハンカチをぎゅっと握りしめる。
声が出なくなった原因は・・やっぱりこの子にあるんだろうけど、なにもそこまでやることないよなぁ、先生。
さて、彼女は頑なに出席を拒否した卒業式に出ることが出来るでしょうか?
いいラストでした。
「ひむりーる独唱」
特にむかつく理由があったわけではない。
家族ともトラブルはなかった。 ただ、深い付き合いのできる友達はいなかった。
衝動的?・・自分でもよくわからないが、先生をナイフで刺してしまった男子生徒の話。
「ひむりーる」というのは、草野心平の詩に出てくる白いカエルだ。
この男子生徒は祖母の田舎で、田んぼのカエルを鎌で112匹殺す。
また、鎌かよ。(「収穫祭」でもう鎌はカンベン)
村内先生が去って、刺された先生が戻ってくる。
さて、その男子生徒はどういう態度で迎えたか。
これもいいラストだった。
村内先生のおかげ。 寄り添ってくれたおかげ。 間に合ってよかった。
「おまもり」
父親が交通事故を起こしてしまった女子生徒の話。
同級生が自転車で轢き逃げされ、足を怪我して入院しているところへお見舞いに行くところから、話が始まる。
別に逃げたわけではないけど、実際怪我をしたんだから、自転車に乗ってた奴は「犯人」なのだとその友達は言う。
私もその子の立場なら、何気に言っちゃうかな。
しかし、いい家族ですねぇ、杏子ちゃんの家族は。
奥さんももちろん、息子も娘も、いい。 本当にいい子供達だ。 ねぇ、お父さん。
で、ラスト。 涙ぼろぼろ出ました。 やだもぅ・・こういうの絶対ダメ。 泣く。
いい話だった。
「青い鳥」
表題作。 こういう名前のドラマありましたね。 トヨエツの。
あれはとてもインパクトのあったドラマでした。 夏川結衣、すごくきれいだったし。
で、こっちの「青い鳥」は5年前に映画になっている。
その時の村内先生役は、阿部寛だったそうだ。
阿部ちゃん?! 全然イメージ違うし。
だって、村内先生はもっさりと地味な背広着て頭が薄いオッサンなんだよ。
阿部ちゃんじゃダンディ過ぎるだろ。
私のイメージでは、渡辺いっけいかドランクドラゴンの塚地。(どうでせうか?)
この話もいじめの話で、コンビニを経営している家の息子野口くんがいじめられる。
野口くんがいつも笑ってるから、みんな調子に乗って要求がエスカレートしていく。
村内先生は言う。
いじめとは、人を踏みにじって苦しめようと思ったり、苦しめていることに気付かず苦しんで叫んでる声を聞こうとしないこと。
もう遅いけど、野口くんは転校しちゃったけど、みんなは気付いた。
最後にみんなが新しく作文(反省文)を書き始める。
よかった。 嬉しくなった。
「静かな楽隊」
次の主人公は聡美ちゃんという女子生徒。
仲良しのあやちゃんが怖い。 これは仲良しか? 友達と言えるのか?
精神上よくないから、付き合わない方がいい。
ところが、そうはいかない。 難しいよね、女の子同士の付き合いって。
トロちゃんはADDですかね。
真っ赤な顔してリコーダーを吹くトロちゃんがとてもかわいそうで・・。
カスタネットに厚手のフェルト挟んだのもひどいけど。
村内先生がすること。 それは「そばにいること」。
だから、みんなひとりぼっちではない。
あやちゃんの態度にも、あやちゃんなりの理由があるんだよね。
でも、ダメだよ。 だからって、ダメ。 聡美ちゃん、さっさと離れなさい。
あやちゃんが自分で気付く時がくればいいけどね。
「拝啓ねずみ大王さま」
お父さんが自殺してしまった男子生徒の話。
ねずみ大王は、お父さんが自殺する3日前に買ってくれたハムスターの名前。
転校してきて友達もなく、彼は毎日ハムスター相手に喋り続ける。
毎年の恒例行事、クラス対抗ムカデ競走。
これこそ、チームワークの力が一番重要ですね。
やりたくないよねーー、こんなの。 気持ちわかりますよ。
だって、「みんな」のこと嫌いだもの。
でも、村内先生と話して、考えが変わる。
間に合ったのだ、彼は。 先に進める。 よかった、よかった。
「進路は北へ」
付属高校がある中学校に通っているのに、外部の高校を目指すことに決めた女子生徒の話。
なぜ、ラクチンな道を選んで付属高校へ行かないのか。
原因は古川さん。 きっかけは「アナゴ」。
単純に言えば、この学校が嫌いだから。
でも、内部進学率100%を目指す教師たちは簡単に許してくれない。
この話の中で、黒板は東西南北どちらにあるかという問いかけが出てくる。
なんと、黒板は日本中すべての学校が同じ方を向いているのだという。
考えれば納得なんだけど。
まず、窓は南よね。 やっぱり。 明るいし。
で、大部分の右利きの生徒は字を書く時、左側から光が当たる方が書く部分が明るくていい。
とすると、西を向くのが一番なのだそうだ。
だから、黒板は常に西に位置する。 これ、覚えておこう・・。
で、北はN。 Nは「NO」じゃなくて「NEW」の「N」。
いいね、前向きで。 それでいきましょう。
「カッコウの卵」
カッコウって、托卵専門で、自分達で雛を育てないんだってね。
他の鳥の巣に卵産んで、あとは知らんぷりなんだって。
そんな風に、親の愛に恵まれなかった中学生の男の子が大きくなって、同じような境遇の女性と出会って家族を作る話。
村内先生は、男性が偶然出会って何年振りかで再会する。
この男性がねぇ、ホントに不幸な人生を歩んできてて。
村内先生が他の先生に語るんだけど、この箇所、涙が止まらなかった。
でも現在の彼は幸せに満ち溢れてる。
この話、本当に心に沁みてしまって、じんわりじんわり温まってしまった。
いいね、重松さん。 読みやすいんだよね。 さくさく進むし。
基本的にいじめとか暗い話が多いから、あまり読みたくないと思ったこともあったんだけど、「流星ワゴン」も
よかったし、入院中に読んだ「卒業」もよかったし、この本も実によかった。